ドイツ精度保証数値計算の旅

以下に収録した写真はいずれもjpgで約50Kです。

成田からコペンハーゲンへ

12月10日(日) スカンジナビア航空でコペンハーゲンへ向かう。完全に満員で,窮屈な思いをするが,無事コペンハーゲンへ到着する。コペンハーゲン空港(空港の写真)はきれいな空港で一時間程待って,ハンブルグ行きに乗り換える。飛行機は小さなプロペラ機で20人乗るのがやっと。これも無事ハンブルグに到着し,シャトルバスでハンブルグ中央駅前のホテルに入る。

niftyの海外ローミングを使ってネットへアクセス

11日(月) 6時に目がさめたので,ネットワークに接続を試みる。若干の設定の調整の後,成功するが,メールが送れない(中谷君が読んでいたらsmtpの設定がsmtp.nifty.comでうまくいかない理由を調べて連絡ください)。メールは読むことができる。ということで,ホームページに新しいページが貼れるか試しにこのページを作ってみた。

Rump教授とのディスカッション

11日(月) ハンブルグ工科大学へRump教授を訪ねる。ハンブルグ中央駅から,地下鉄S3で15分ぐらいのHeimfeldという駅で降り,歩いて10分ぐらいのSchwarzenberg Strasse 95にある大学へ向かう。途中で場所を何人かの人に尋ねるが,英語がよくできる人はドイツ人でもそんなに多くないことが再び実感される。

新しい,弧状の5階建ての建物の3F(3060室)にRump教授の部屋が在った(建物の写真)。今秋,ドレスデンのSchwarz教授の部屋を訪ねたときもそうであったが,まず,秘書の部屋があって教授の部屋がある。とてもきれいな部屋で,木製の家具を自分で作っている途中であった。パソコンを打つ広めの台や,収納家具などを作る材料が置いたあった。やさしそうな家具である。

Rump教授と色々情報交換をする(Rump教授と筆者)。

議論していると数時間があっという間に過ぎ,どっぷりと日が暮れている。ハンブルグが高緯度にあることが確認される。

完全なジェットラグである。夜中の3時に起きだしてこれを書いている。いつものことではある。

ハンブルグ工科大学で講演

12日(火) ハンブルグ工科大学に到着後,Rump教授の家で昼食を頂く。奥さんの作られたドイツ家庭料理。その後,大学に戻り,講演をする。机をたたくことが拍手らしい。固有値の精度保証の話をする。多重固有値の精度保証ができることを実演すると,どこでもそうだが,驚いて,大変興味をもってくれた。また,精度保証のほうが,固有値の近似計算より速くすむことを示すと,これも興味をもってくれた(ディスカッションの一こま)。その後,Rump教授と議論をする。荻田君との共著の論文を面白い良い論文だと誉めてくれた。

などを議論していると,外は既に深い闇の中であった(街並み)。

カールスルーエへ

13日(水) シャトルバスでハンブルグ空港へ行き,フランクフルトへ飛び立つ。フランクフルト着後,列車でカールスルーエへ向かった。列車は20分遅れて運行されていた。カールスルーエ駅からタクシーでカールスルーエ大学のAlefeld教授に会いに行く。後でAlefeld教授に伺ったところでは,タクシー代に通常の倍以上の金額がかかっており,遠回りされたらしい。3時にはAlefeld教授の研究室に入り,いろいろディスカッションした。Alefeld教授はドイツ応用数学会の会長である(Alefeld教授の写真)。

議論を終了したら6時で,日が暮れていた。しかし,ハンブルグより,日没が遅い。明るい空を見たのは,ドイツにきて今日が初めてだった。夕食に招待され,精度保証付き数値計算のワークショップを日本で開催することを検討するという話になった。

などなど色々説明してもらった。歩いているとクリスマスマーケットがあり,クリスマス飾りを含めて色々なものが売られていた。さながら,日本の酉の市といった趣である。若者は,お酒を立ち飲みして,マーケットの一角で長話をしている。

カールスルーエ大学で講演

14日(木) カールスルーエ大学で講演する。11時にAlefeld教授の部屋を訪れる。教授の論文の詳細な説明をしてもらう(説明するAlefeld教授と筆者)。ここで,長年の疑問をぶつけてみる。非線形系の区間解析ではクラフチック法が重要となるが,クラフチックとはどんな人物かあまり我々には明らかでなかった。Alefeld教授によると,クラフチックはKarlsruhe大学の出身で,カールスルーエ工科大学の先生であったが,退職しているということであった。現在は70才らしい。最終的に助教授で定年を迎えたらしい。クラフチックは,一変数の区間ニュートン法において,分母に現れるf'([z])が0を含む可能性があるのをきらって,クラフチック作用素を考えたとのことであった。クラフチック作用素の凸集合の像がその凸集合に含まれると解が少なくとも一つ存在するというのがムーアテストであるが,この命題はムーアのものらしい。この辺で,お昼になった。大学内の食堂に行って,スロベキアスペシャルという昼食をごちそうになった。スパイシーであるとのことであったが,それほどでもなかった。

昼食後,学内を案内してもらった。その後,講演をする。講演の案内文を頂くが,Herr Professor Dr. Shin'ichi OISHIという紹介はドイツ的だと思った。固有値の精度保証の話と反復法による精度保証の話をした。Plum教授が来られた。彼は,私より,ほんの少し若いと思う。夕食は子守りのため一緒にできないといって帰られた。やはり講演が終わると,机をこぶしでたたく。教授に問い合わせると,講義の終わりでもそうらしい。拍手は国際的な習慣だが,ドイツはこぶしらしい。Alefeld教授が学生が使うレストランを2002年9月21日からパリで開催される。PalmIIIcがよいといって操作法を見せてくれた。また,日本の電話代が高かったとおっしゃられていた。アメリカやドイツでは信じられないぐらい電話代が安くなってきているのに。ドイツの女子学生も高いハイヒールを履いている。Alefeld教授が竹馬の練習をしてからでないと履けないと嘆いている。最後はホテルまで送ってもらった。

ところで,今のドイツは日本より断然暖かい。10度以上はあるだろう。明日から,寒さがきつくなるらしいが,Alefeld教授はあまり信じていない様子である。明日はMunichまで教授のベンツで一緒に移動する。アウトバーンを長距離走ることになる。Munichは高度が700mということで,軽井沢よりほんの少し低い程度のところにある。もしかしたら,寒いかもしれない。

ミュンヘンへ

15日(金) 午前8時,カールスルーエを立ち,ミュンヘンに向かう。Alefeld教授の車で一緒に移動する。約300kmの道のりである。アウトバーンの8番に乗る。途中,スツットガルト,ウルムなどを経てミュンヘンに11時につく。最高時速190kmの旅であった。車が速すぎたら,速度を落とすからと言われたが,答えようがなかった。途中に現れる町や村には,必ず教会がある。教会には必ず塔があるが,その形が町によって異なる。なぜその形を取るかは歴史的な背景があるらしい。塔の先端はみなとがっているが,塔の形は,四角柱のもの,円柱であるものがあった。また,その柱の上に乗っているのが,円錐,四角錘,たまねぎ型など様々である。大きさもみな異なる。ミュンヘンの教会はさすがに大きい。かなり前のことであるが,オクトーバフェスタを行う広場に旅客機が緊急着陸を試みたことがあるらしい。そのとき,飛行機は教会の塔に引っかかって,数十人が犠牲になったと聞かされた(教会の写真)。

ホテルに入り,昼食を取り,12時半から受付で,13時よりワークショップが開催される。International GAMM Workshop on Inclusion Methods for Nonlinear Problems with Applications in Engineering, Economics and Physicsといタイトルのワークショップである(ワークショップの一こま。講演者はKulisch教授)。18日まで4日間土日もなく続く。日本からは私と京大の奥村先生が招待されていた。アジアからは,他に上海交通大学のリン教授が参加している。場所はミュンヘンの中央駅から歩いてすぐの,Adolf-Kolping-Hausであった。これはカトリックの建物である。次のような講演があった。

などである。固有値の相対誤差評価について話したのはHariという人である。これは,面白かった。クロアチアから来ているらしい。2番目と3番目の講演はセルビア人の夫妻である。非常に複雑である。夕食を主催者のヘルツベルガー教授の家に招待される。オリエンタルなダイニングでホワイトソーセージや東欧のワインやチーズなど珍しいものをご馳走になる(Herzberger教授のダイニング)。帰ってきたら夜中の2時であった。ミュンヘンの方が少し寒いが,日本より暖かいのではないかと思う。

ビーマーが使えないというので,OHPシートを買ってきてあったので,早朝に起きて,OHPを20枚書く。時差の関係で早く目がさめるので,苦にならない。終わってから朝食を取った。ドイツのホテルの朝食はよい。特にパンがいい。今日(16日)は朝から晩までワークショップである。私の講演も16時からある。ドイツに来て初めて雪がちらつくのを窓の外に見ている。

GAMM International Workshopでの講演

16日(土) 9:30分からワークショップの2日目が始まる。Mayerの講演がある。有限次元の線形方程式の係数の区間化した方程式の不動点 の集合を包み込む話。堀内先生の研究を,有限次元線形系に限定し,具体的にしたような話。声は大きいが彼の結果にあまり迫力はない。Alwfeld教授の話はKarlsruheで説明してもらった内容である。中国からもう一人Shen教授が話をする。中国の人の話はみな早く終わる。ここでお昼。2時間半休憩があるので,奥村先生と一緒に昼食に出かける。日本語を話しながら食事をするのは,今回が初めて。牛肉はやめた方が良いとAlefeld教授から聞いていたので,ポークにする。京大での改革の話,学会の英文誌,和文誌の話,通信学会と電気学会の協力の話などゆっくりできた。

午後2時からワークショップ再開。ロシア人の講演が幾つか続く。英語は総じて下手だ。パッキングの話や,ウエーヴレットの話などがある。休憩を30分とって,4:30から一時間ほど私の講演となる。「線形問題については,精度保証付き数値計算による,厳密な誤差評価が,近似計算の手間と同程度になるか,時には,精度保証の方が短くてすむという 」という長い題の講演をする。まず,数値計算結果を,フル行列を係数にもつ行列方程式の直接解法,スパースだが特殊な構造をもつ大規模行列方程式の反復解法,固有値問題では一般の複素行列,エルミート行列の固有値の精度保証,一般行列の特異値の精度保証について結果を示す。これらについて,例えば1000x1000の行列方程式の最速パッケージをPentimuIII600MHzで走らせると,近似解の計算に2.01秒,精度保証に2.3秒という結果や同様な結果を示す。まず,Kulisch教授から,それは従来の方法と違う方法を使うのだろうという質問が飛ぶ。Yesと答えて,私の方法の説明に入る。途中で色々な質問が入り,英語がどんどん早口になっていく。非常に手ごたえの在る講演だった。終わった後,Kulisch教授(Karlsruhe大学の教授で精度保証のリバイバルの中心的な役割を果たした)から,大変面白かった。とても楽しませてもらったと握手を求められた。Hari教授も大変面白いといって握手に来られた。Alefeld教授も大変良い講演だったといってくれた。質問や,そんなことが可能かというような驚きの声が非常に沢山あり,よい手応えだった。この内容は,2000年末に出るLAA(Linear Algebra and Its Applications)などに出版される私の論文をもとにしている。

夕食後,初めてジェットラグなしに寝られた。

GAMM のワークショップ

17日(日) 今日も朝から,前日と同じワークショップが夜まであった。Kulisch教授の講演は浮動小数点数がどのような性質をもつときに,加法に関して逆元を必ず持つかの必要十分条件を与えるという講演で,地味ではあるが面白かった。特に,チョッピングと反対向きの丸めがあると,計算幾何学で面白い応用があるという指摘は新鮮だった。丸めの演算の性質についてコメントすると,いいコメントだといって,大きく反応していたのが印象的だった。ウクライナのアカデミシャンの講演は,楕円演算の話であった。微分不等式の話や,シンギュラリティをもつ偏微分方程式の話などがあった。

夕方からレセプションがあり,主催のヘルツバーガー教授の還暦のお祝いの席となった(Herberger教授とご家族)。今日は,ミュンヘンから地下鉄S1で20分ほどの市民ホールが会場となった。ホテルに着いたのは9時を回っていた。

ドレスデンへ

18日(月) GAMMのワークショップの最終日,午前中3件の講演があった。京大の奥村先生の講演もこのセッションの中である。お昼に,お別れというということで,Herzberger婦人(アタナソフという数学者で,現在はソフトウエア会社に勤めている。Javaプログラミングをしているとのこと)と奥村先生と3人で昼食会をする。

Kulisch教授にミュンヘン空港までの行き方を前日訪ねたら,今日詳細に行き方を教えてくれた。駅まで送ってもらい,2時にミュンヘンの町をたつ。Sバーン(S1)を利用する。後ろ半分が飛行場まで行くので注意が必要である(教えてもらってないと大変であった)。飛行機は3時40分発ですいていた。ドレスデン空港からは,Schwarz教授の薦めどおりにタクシーでドレスデン工科大学へ向かう。

Schwarz教授が部屋で待っていてくれた。教授の車で,自宅に伺う。現在ロシア人の教授夫妻と8才になるかわいいお孫さん(女の子)が教授の家に長い間,滞在しているという。シャンパンで到着を乾杯してくれる。奥さんを含めて6人でクリスマスデコレーションされた家々の街を散歩した。ガス灯を街角に使っている。近代的なもので,センサーで点灯するという。雪とガス灯はとてもよいらしいが,雪はない。目的地の丘の上にあるレストランへケーブルカーで向かう。そこは町でもっとも豊かな人が住むエリアで,レストランも大変すばらしい。そこでWelcome Dinner会を開催してくれた。 鹿の肉の料理を食べた。

このロシア人はロシア語しか理解しない。私は英語と少しのドイツ語とほんの少しのロシア語。シュワルツ教授は英語,ドイツ語,ロシア語なんでもこなす。奥さんはドイツ語だけ。8才の女の子は英語もしゃべれる。シュワルツさんとロシア人教授が共著で無線通信の本を出される(2001年出版) ものの試しずりを見せてくれた。図や,本文の一部は読める。 ドイツ語とロシア語と英語が交錯する面白い会話が10時ごろまで続く。Schwarz教授とは,シンポジウムのことや講義のことなど色々打ち合わせできた。

ドレスデン工科大学で講演

19日(火) ドレスデン工科大学で10:00から講演する。精度保証付き線形数値計算の高速アルゴリズムの話をする。Nolta2000を手伝ってくれた懐かしい顔が並んでいた。Herren Pfofessor Oishiというアナウンスになっていた。興味をもったReinschke教授から,時間を取って議論してほしい旨申し出があり,明日の午前中という約束をした。

昼食をメンザでとり,午後から,Schwarz教授と議論をした(昼食の写真)。

その後,を見に行こうというので出かける。

6:00から情報・電気系のスタッフのクリスマス会に招待された(会の一こま)。学部長がきて挨拶している。彼は,この一年間のイベントをギリシャ神話風の漫画にして紹介している。我々のNolta2000シンポジウムも紹介された。ブラジルに客員として行った人のスライドが紹介された(滝や動物の写真,結構長かった)。10時に終わって,ホテルに戻る。

明日夕方は学生主催のクリスマスパーティに招待される。

Reinschke教授とのディスカッション

20(水) 午前中Reinschke教授と議論する。教授は1973年にドイツ語の回路理論の本を書かれている。その中の1章は区間解析による回路解析である。多分,かなりこの方面の応用としては早い。ロシア語の本もあるらしい。私の講演が面白かったといって,色々誉めてくれた。また,最新の情報を色々お教えしたが,詳しい論文のリストなどは日本に帰ってからお知らせすることになった。

午後は,Schwarz教授が会議で空いていないので,街に出て,ヒルトンホテルの2階の日本レストランへ食べに行った。ドイツに来て初めての日本食である。その後,ホテルの部屋で,こちらで考えついた精度保証の新しいアイディアを検証するためプログラミングする。夕方までに,うまくいったので,気持ちよくSchwarz教授の部屋へ向かった。学生主催のクリスマスパーティである(クリスマス会の一こま)。これがどんなものであったかと,いろいろ取った写真(ドレスデンのクリスマスマーケット)については日本でのお土産話としたい。

今日でいよいよドイツ滞在も終わり,明日,早朝帰途に着く。この記録もこれで閉じることにしよう。

22日(金) まる24時間の移動を経て無事帰国した。


最終変更 00/12/22

©Shin'ichi OISHI

URI: http://www.oishi.info.waseda.ac.jp/~oishi/germany/trip.htm