インターネット補講

1/24日かぜで休講となってしまったので,その補講をします。一日に沢山書くのはしんどいので,少しずつ増やしていきます。

2月3日 数値解析の祖 ウイルキンソン

情報系の物理学といえば,多分かなり最初に思いつくのはシミュレーション物理学でしょう。ここでは,シミュレーション物理学まではいかないかもしれませんが,数値計算ツールの入門的紹介をしてみましょう。

近代数値計算の祖の一人はウイルキンソン(James Hardy Wilkinson))という人です。彼は,1919年イギリスに生まれ,1986年イギリスで亡くなっています。

数値計算の理論とプログラミングに大きな功績を残しています。特に,数値線形代数という,線形代数の問題を数値計算で解く分野で大きな業績を残しています。数値線形代数における後退誤差解析は中でも特に有名です。これは数値計算の理論に大きな影響を与えます。ウイルキンソンの業績については次の文献が参考になります。

E L Albasiny, Dr. James Hardy Wilkinson, FRS, 1919-1986, Utilitas Math. 31 (1987), 7-12.

F L Bauer and A S Householder, In memoriam: J H Wilkinson (1919-1986), Numer. Math. 51 (1987), 1-2.

L Fox, James Hardy Wilkinson, Biographical Memoirs of Fellows of the Royal Society of London 33 (1987), 671-708.

L Fox, Obituary: Dr. J H Wilkinson, FRS, Comput. J. 30 (1) (1987), 1.

E T Goodwin, Obituary: Dr. James Hardy Wilkinson, Bull. Inst. Math. Appl. 23 (1987), 76-77.

B N Parlett, The contribution of J H Wilkinson to numerical analysis, A history of scientific computing (New York, 1990), 17-30.

J K Reid, The contribution of Dr. J H Wilkinson to numerical analysis, Bull. Inst. Math. Appl. 13 (1977), 281-282.

R Stanton, In memoriam: James H Wilkinson, Utilitas Math. 31 (1987), 5.

ウイルキンソンは1940年から,ballistics(弾道)に関する数値計算の研究を始めます。1946年にはロンドンの the National Physical LaboratoryでTuringの助手になります。この研究がきっかけで彼は数値計算の研究を続けていくことになります。彼は,大変優れた理論家であると同時に,数値計算用のパッケージを開発することにも大変熱心でした。1970年にNAG (Numerical Algorithms Group)が活動を開始しますが,線形数値計算ルーチンの多くは彼によるものでした。

LINPACKという線形数値計算パッケージも彼のルーチンをもとに発展されたものでした。 これが発展してLAPACKが作られます。LAPACKは線形代数の問題の数値計算ライブラリとして極めて有用なものです。LAPACKはキャッシュをもつ現代コンピュータのメモリ階層を考えて,LINPACKの高速化を達成したものです。要するに,一度キャッシュに入れたデータを使ってある程度のまとまった計算ができれば,高速化が果たせるというアイディアです。具体的には行列の分割解法が利用されています。キャッシュサイズはCPUによって異なるためLAPACKではBLAS(Basic Liniear Algebraic Subprograms)というベクトルと行列の標準化された演算ライブラリを用意し,LAPACK自身はBLASの言葉で書かれます。BLASを高速化しておけばLAPACKも高速化されるという訳です。


最終更新 2001/2/3

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URI: http://www.oishi.info.waseda.ac.jp/~oishi/phy/lec.htm